18、釘を刺される

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 そこで、電話の向こうの声が低くなる。 『まさか、あの子の弱みに付け込んで、身体を要求するようなことは――』  「僕からは、何も要求していません。ホテルは、本当は別の部屋を取るつもりやったのが、たまたま満室で……それで……」  そんなのは言い訳に過ぎないと桜井自身が知っている。同室に引き入れたのがそもそも非常識だと。 『あの子にも聞きましたのよ。この先どうするつもりなのって。そしたらあの子はね、パリにいる間だけの恋人で構わないと言いましたのよ。それでもいいって』 「え……?」    スマホから漏れる衝撃的な言葉に、桜井の息が止まる。――昨夜、あの後、電話口で説教されていた杏樹に遠慮して、桜井はシャワーを浴びたりして席をはずした。その間の話だろうか?   『パリにいる間だけ甘えられればそれでいいって。……あの子は、たしかに少々、愚かで考え無しなところがありますわ。若さと勢いに任せて、先のことなど考えない。馬鹿な子とは思うけど、あたくしにとってはたった一人の可愛い孫ですの。あなたは、あの子の若さと愚かさに付け込んで、旅先の過ちで済ますおつもりなのかしら』 「あ、う……」  
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