2、ダサ眼鏡桜井

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2、ダサ眼鏡桜井

 異国の地で、財布もスマホも、パスポートまで奪われた北川杏樹(20)。  人生最大のピンチに、颯爽と登場したのはイケメンのスパダリではなく、アキバ系ファッションに身を包んだダサ眼鏡男であった。――助けてくれるだけで、地獄で仏のありがたさではあるが――  実際、失恋とひったくりの二大ショックで杏樹の脳はショートしてしまい、まともに機能していなかった。すりむいた膝と破れたタイツを見下ろして呆然とするばかりの杏樹を後目に、眼鏡男は倒れたスーツケースを起こし、自ら引っ張りながら現地の人から警察署の場所を聞きだしている。 「まずは警察に行って、膝の手当てはそこでしようや。歩けるな?」  確かめるように言われて慌てて我に返り、大きく頷く。  「はい。大丈夫、です。本当に、すみません……!」   恐縮して頭を下げれば、男は少しばかり困ったように肩を竦めた。 「これも何かの縁やし、気にせんといて。外国で財布盗られた女の子、放っとかれへんやろ」  東京育ちの杏樹の耳には、漫才師のようにしか聞こえないのだが、男の喋り方自体は柔らかくて品があった。
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