19、近づく別れ

2/7
前へ
/337ページ
次へ
 幼稚園からエスカレーター式の女子校に入れられ、大学まで女子大。門限は高校時代までは六時、大学に入っても八時で、バイトは禁止。一時期ひっきりなしにあった、芸能事務所からのお誘いはすべて却下。パリ行きを許してくれたのは、杏樹が昔から健司を好きなのを祖母も知っていて、そして健司ならばと思ったからだろう。  蓋を開ければ、健司は美奈子と浮気して、杏樹は現地で出会った見知らぬ男に処女を捧げていた。  祖母としては許し難かったのかもしれない。      『助けてくれた人だと言っても、出会って数日の人と寝るなんて。子供でもできたらどうするつもりなの』  「子供はできないようにしているし! そんなの……!」    電話口で続く説教に、杏樹は辟易していた。――桜井はそっと寝室を出て行き、浴室からシャワーの水音がする。 『杏樹、あなたね……』  「もういいでしょ? 夜も遅いし。どうせあと数日で日本に帰るんだから。美奈ちゃんと健司から何を吹き込まれたか知らないけど、桜井さんはすごく優しいし素敵な人なの! 健司と違って誠実だし!」 『ほんとうに誠実な人は、旅先で出会った行きずりの小娘に手を出しません』
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2332人が本棚に入れています
本棚に追加