19、近づく別れ

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 駆け寄って長身を下から仰ぎ見れば、少し、表情が硬い。 「雅煕さん?……どうかした?」 「……なんでもない。少し、疲れた。杏樹はどうだった?」  「わ、わたしも広すぎて……全部はとても」 「まあ、そうやろな……」       杏樹が手を握れば、一瞬の間があってから躊躇うように握り返される。 「帰国便を、予約せんならん……俺は十八日の関空行きを予約してんねんけど、それは満席やった」   杏樹はもともと帰国便を指定していなかった。 「十八日の羽田行きの便なら、まだ席に余裕があった。俺が羽田経由で関空乗り継ぎに変えたら、羽田までは一緒に帰れる――」        杏樹の表情が花が開いたように明るくなり、桜井の腕に抱き着く。 「ほんと? なら、それがいい!」 「ほんなら、後でパスポートと予約番号教えて。上手くすれば隣の席が取れる。……エコノミーやけど」  桜井は文部科学省の科学研究費で来ているので、帰国後にチケットのレシートを提出しないといけない。 「へんにグレードアップするといろいろ面倒くさいことになるさかい……」  
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