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「ううん? 全然、いいよ? 行きはビジネスだったけど、一人で退屈だったもん」
「そっか。それならよかった」
素直な反応に、桜井が杏樹の指に指を絡め、力を込めて握り直した。
ルーブルからサン・トノレ通りを手を繋いで歩いて、桜井が一軒の店を指した。
「ずっとそのメッセンジャーバッグ使てるけど、飛行機に乗るには小さいやろ。一個買うた方がいいと思うねん」
「え、でも――」
遠慮する杏樹に、桜井が微かに眉を顰めた。
「今さら遠慮してんのは、なんか理由があるん?」
「り、理由? そんなのは……ただ、申し訳ないから……」
俯く杏樹の顎に手をかけて顔を上げさせて目線を合わせ、桜井が言う。
「俺が買って、贈りたいの。……嫌?」
杏樹が慌てて首を振る。
「嫌だなんてそんな!」
「俺、あんまりセンス自信ないし、ブランドとかよう知らんのやけど、あの店……なんか由緒ありげやん? 有名?」
「う、うん……わりと、有名じゃないかな? 日本のデパートにも入ってるよ? カッコイイよね?」
「ほな、入るで?」
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