19、近づく別れ

6/7
前へ
/337ページ
次へ
 カランカラン……ドアベルの音とともに、ヘリンボーン模様が特徴的な商品が並ぶ店内に足を踏み入れる。 「あのトート! あれくらいの大きさがあったら、通学にも使えそう!」 「なら、あれにする?」  桜井が店員と交渉し、清算時に例の黄緑色のマジックテープ財布から黒いカードを出すと、店員の表情が変わる。ショッパーを抱えて、夕食を摂る店を物色し、一見、魚屋のようだが店内で牡蠣(カキ)雲丹(ウニ)とワインを飲める小さなオイスターバーを見つけた。   「フランス人も生牡蠣食べるの?」 「いや、むしろ生でしか喰わへんらしいで? 杏樹は牡蠣大丈夫?」 「うん、大好き!」      レモンを絞ってツルリと食べる牡蠣は、アッサリしていくらでも食べられそう。白ワインとの相性も最高。生雲丹、エビ、貝……魚介を堪能した後は、別のカフェに移動してパスタを食べ、デザートにクリームブリュレを注文した。 「杏樹は……その、大学では何を勉強してんの?」  「え……わたし? 保育科」 「……子供が好きなんや?」 「別に? 嫌いでもないけど、特に好きでもない」  杏樹の答えに、桜井が怪訝な顔をする。
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2332人が本棚に入れています
本棚に追加