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「なんか水くさいやん」
桜井がシャンパンをぐびっと飲み、目を逸らす。
「女にはガンガン金を使えってのもウチの家訓やし」
「また家訓? 家訓多すぎない?」
少々呆れて言えば、桜井が肩を竦めた。
「全部で三十五条あって、毎朝仏壇の前に正座して暗唱するんや」
「ええ? ほんとに? 嘘でしょ!」
「そう思うやろ?……それがな、ほんまに嘘やねん」
向かい側の席で真面目な顔で言われて、杏樹は一瞬、固まってから、意味を悟って噴き出した。
「なんなんですか、もう! 冗談ばっかり!」
「女に金を使えって家訓は本当や。兄貴の婚約者はヴァイオリニストやねんけどな、口説くときに二億円くらいするストラディヴァリウス買うてさ。そんなん買われたら断れへんやん」
「二億円? お兄さんて、例の、フェルト財布の人?」
杏樹が目を見開く。
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