2、ダサ眼鏡桜井

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「僕は桜井っていいますねん。桜井雅煕(さくらいまさひろ)。桜に井戸の井ぃに、マサは(みやび)で、ヒロは康熙帝(こうきてい)()――」 「コーキテイ?……て、何ですか?」  しかし、漢字の説明をさっぱり理解しない杏樹に聞き返され、男は苦笑した。 「後で名刺上げるさかい。で、君は?」 「わたしは、杏樹。北川杏樹です!」 「アンジュちゃん。……言いにくいな。安寿と厨子王(ずしおう)の安寿?」 「アンジュトズシオー?」 「森鴎外の」 「モリオーガイ? オーム貝の仲間か何か?」     「……ごめん、君とは生息する語彙(ごい)の世界が重ならへんようや……」  男がごわごわの頭をかきながら、えらい困ったなあ……と小さく呟く。その様子に、杏樹はこれ以上面倒はかけられないと、名前の漢字を自分で説明した。   「(あんず)()と書いて、杏樹です。呼びにくいから、呼び捨てにしてください。桜井さんの方が年上でしょうし」 「そっちの字か……初対面の女の子を、いきなり呼び捨てにすんのもなあ……」
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