20、最後の夜*

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 たしかに、外国で助けてくれたから、あのオタクファッションが帳消しになったけど、別の時に日本で出会っていたら、杏樹が桜井に恋して深い仲になったとは思えない。     「ああごめん、愚痴ってしまった。……まあ、そういう理由やから金はええねん」  そう言ってから、桜井は上着の内ポケットから名刺を出して、そこにボールペンで何か書き込んでから、杏樹に渡した。 「これ、前にも名刺は渡したけど、俺のスマホの番号と、裏に住所書いておいたから。でもさっき言った理由で現金書留はやめて。マジで一生、三百ユーロをケチった男、って渾名ついて揶揄われるから」 「ん」    杏樹は名刺を受け取り、その場で財布の中にしまった。 「なんかあったら必ず連絡してや?」 「……なんかって?」  思わず聞き返す杏樹に、桜井は気まずそうに視線を泳がせる。 「その……例えば……避妊はしてるけど、百パーセントやないし……」  「あ、ああ、そのこと」     杏樹が頷けば、桜井が真剣な目で言った。 「杏樹一人に背負わせて知らん顔みたいなことは、絶対にせえへんから」  「う、うん……わかった」     
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