20、最後の夜*

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 桜井の誠実さに杏樹は頷いたけれど、その一方で、金を返す必要もないというほどならば、やはり何もなければ連絡はしないでおこうと決意した。  ベッドサイドの明かりだけが灯る部屋で、桜井の手が慎重に杏樹のワンピースの背中のファスナーを下ろしていく。両肩からワンピースがずるりと滑り落ちて足元にわだかまる。滑りのいい生地とレースで飾られたスリップをたくし上げられ、頭から抜き取られる。  くるりと体の向きを変えて、正面から下着姿を見下ろされて、杏樹は恥ずかしさに顔を背けた。  白いレースのついたブラジャーと、おそろいのショーツに、薄い黒のストッキング。一方、桜井は上着とネクタイを外し、ウエストコートの下のドレスシャツはボタンが三つほど外れて肌を覗かせている。   「……これって、いわゆる『勝負下着』ってやつなん?」 「う、うん……まあ、そうかな?」 「つまり、本来ならばあの、アホの彼氏が……」
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