21、羽田の別れ*

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「ああっあっ……あっ……」     二人ほぼ同時に絶頂に至って、被膜越しに熱を分かち合う。桜井の汗ばんだ胸の上に頽れた杏樹は、長い腕にがっちりと抱きしめられる。 「杏樹……愛してる」  耳元で囁かれる愛の言葉に、ああ、本当にこれで最後なんだ、と杏樹は目を閉じた。 「……当機は、まもなく羽田空港に着陸いたします。着陸予定時刻は、日本時間の十五時二十二分、空港からの情報によりますと、現地の天候は晴れ、地上の温度は摂氏十二度でございます。ベルトをもう一度お確かめくださいませ――」    パリ、シャルル・ド・ゴール空港から羽田まで、十三時間半のフライトの間、二人はエコノミーの狭い座席でピッタリと身を寄せ合って過ごした。――ブランケットの下で手を握り合い、時に、周囲の目を盗んでキスを交わして。  ガクン、と着陸の衝撃を感じ、ゴゴゴゴゴと逆噴射の音がする。窓の外、冬の午後の淡い光に包まれた滑走路の風景が、東京の日常に戻ってきたのだと杏樹に教える。  ピーン……  ベルト着用サインが消え、乗客たちが立ち上がって動き始める。
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