21、羽田の別れ*

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 桜井が立ち上がり、座席の上から空港で買ったお土産の袋と、コートを下ろす。当たり前のように差し出される手を、一瞬、ためらえば、桜井が怪訝そうな顔で杏樹を見た。 「杏樹?」 「あ、うん……」 「羽田からはどうやって帰るの?」 「……おばあちゃまが迎えを寄越すって……」 「あ――」    そこからは言葉少なに税関と入国審査を通り、手荷物を受け取る。到着ロビーのゲートを出たところで、ひっつめ髪に眼鏡をかけ、地味な紺色のスーツを着た中年女性が杏樹に気づき、近づいて声をかけた。   「杏樹お嬢様、お帰りなさいませ」 「……あ、丹羽さん。わざわざすみません……」  祖母の秘書・丹羽に不審な目でジロジロ見られ、桜井は気まずそうに頭を下げる。 「サクライ様でいらっしゃいますね。今回はお嬢様をお助けいただきありがとうございます。こちら、北川よりことづかってまいりました。どうかお納めくださいませ」
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