2331人が本棚に入れています
本棚に追加
22、祖父と祖母の因縁
三月の末、京都。
三条木屋町の雑居ビルの上層階、鴨川を見下ろす小さなワインバー。カウンター席とテーブル席が三つだけの、こじんまりとした店に、桜井雅煕は博士の学位取得のお祝いだからと、兄・幸煕に呼び出されていた。
普段から客も少ないこの店、兄と雅煕を迎えたら、店主はドアに貸し切りの札を下げてしまった。つまり、店には今、桜井兄弟とマスターの牛田礼二の三人きりである。
そして。
兄も礼二も、雅煕のパリでの恋に、興味津々であった。
「ほんで、ほんで? んで、どうやって童貞喪失まで持ち込んだん? お金あげるから一発ヤらせろとか?」
「兄ちゃん、それはただの買春やん。そんなことせえへんわ!」
「雅ちゃん、眼鏡の選択間違うてる以外は、男前やし、案外、向こうから迫ってきたんやないのぉ?」
マスターの礼二は、髪をオールバックにしてあご髭を生やしたいかつい外見のくせに、喋り方がオネエなのである。――礼二はこのビルのオーナーの息子で、兄・幸煕の同級生。この店の儲けは礼二の小遣いなので、経営は要するに趣味である。
最初のコメントを投稿しよう!