22、祖父と祖母の因縁

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 北川興産とは、世間に興味の薄い雅煕ですら聞いたことのある、石油系の大企業で、北川家はその創業者一族である。 「……せやったん。知らんかった」 「せやろうなとは、思った。そんなんやから、二十万ぽッちの手切れ金叩きつけられて、尻尾巻いて逃げよって」  苦々し気にシャンパンを呷る幸煕に睨まれ、雅煕はそっぽを向く。 「だって……そらあんなん空港で渡されたらしゃあないやん。人目もあるし」  杏樹の祖母の秘書と名乗る女性から渡された封筒には、二十万円がピン札で入っていた。――孫娘がパリで助けられた借りはキッチリ返す。その代わり、二人の縁はこれまで、と宣言されたようなものだ。   「兄ちゃんこそ、なんなん? もう終わった件をまた蒸し返して。俺の失恋の傷を抉って楽しい?」 「ちゃうわ! 和泉(いずみ)財閥の将来がかかった大事な話やから、もう一回お前の気持ちを確かめとかな思ってん!」 「どういう意味なん」  幸煕はグラスをカウンターに置くと、弟に向き直る。二学年違いの兄弟、並んでいても、ぱっと見て兄弟と気づく者はほぼいない。顔の造作は似ていても、醸し出す雰囲気が違い過ぎるのである。
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