22、祖父と祖母の因縁

5/9
前へ
/337ページ
次へ
 関西の経済界で、父の片腕として一線に立つ幸煕は、押しが強く自信家で、傲岸不遜ですらある。一方の雅煕は太縁の眼鏡で顔の印象を隠し、ひっそり世間から隠れ、象牙の塔に籠って生きてきた。だが――   「雅、お前、秋にはおじい様の養子になって、和泉財閥の跡取りになんのやで? わかってるか? お前の結婚は、我らが和泉グループどころか、日本経済にとっても大問題や」 「和泉グループはともかく、日本経済に及ぼす影響なんかしらんわ」  顔の前でうっとうしそうに手を振る弟を、兄が叱りつける。 「お前、六年前に有賀(ありが)の娘と婚約が破談になって、有賀電機つぶしかけといて、よう言うわ!」 「あれ、俺のせいちゃうやん! 俺が寝こんでるうちに、小父(おじ)さんたちが勝手にやったんや、俺悪くない!」       「まあまあ、幸くん、今ここで雅くんのトラウマ抉っても……」  カウンターの向こうから礼二が仲裁に入り、幸煕がムウと口を噤み、グラスを呷る。  空いたグラスに礼二が黄色いラベルのついた黒い瓶を傾け、金色の泡の立つ酒を充たす。
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2331人が本棚に入れています
本棚に追加