23、皐月の茶会

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 坪庭を望む和室に通されると、すぐに白地の訪問着を着た女性が挨拶に現れた。 「この度はわざわざのお運び、ほんにありがとうございます。四郎左衛門の長女、桜井由美子と申します。本日は茶事の半東(はんとう)(茶事の亭主の補佐)を務めさせていただきます」    丁寧に頭を下げる女性に、苑子もまた礼を返し、東京から抱えてきた花入の木箱を渡す。 「その、和泉家のお茶事に使うような、銘品ではございませんのよ……」   「いえ、亭主が是非にと申しておりますさかい。東京からご足労いただき、恐縮でございます」  関西のイントネーションに、最近、どこかで聞いたなと思い、首を傾げる。だが思い出すことができない。そのうち、由美子が茶事の待ち時間に客に出す「汲み出し」を運んできた。 「桜湯でございます」 「頂戴いたします。……その、他のお客様は?」 「北川様は特別なお客様ですよって。我が家の茶事は少々変則的で、複数の組みのお客様をもてなすことになっております。初座(しょざ)の開始は十一時過ぎの予定です。それまではご自由にお寛ぎくださいませ」  そこへ、(ふすま)の向こうから若い男の声がかかる。
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