23、皐月の茶会

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「お客様の前で申し訳ない。……お母さん、ちょっと」  由美子が慌てて表情を変え、「えらい失礼なこと、かんにんしておくれやす」と頭を下げてから、戸口へ出て行く。 「どうしたの! こんなところまで!」 「ごめん、おじい様が今から番頭家の小父(おじ)さんたちを茶室に集めるように言わはって――」 「今から? ……わかったわ。お母さんも後からすぐ行くけど、あんた先に水屋に行って、晶子(あきこ)叔母さんに人数分のお菓子用意するように言うといて。あと、お父さんにも!」 「わかった。僕も茶室入るように言われてん」 「なら、足袋! 足袋を忘れんように」  母と息子らしい会話を微笑ましく聞いていた苑子だが、どうにも男の声に聞き覚えがあるような気がしてきた。苑子の周囲に関西出身の者はいないし、電話で話をするような関西の友人もいない。それも若い男なんて――とまで考えて、苑子はある男を思い出して、桜湯を咽そうになる。  桜井由美子、の息子なら、当然、サクライ。  最愛の孫、杏樹をパリで助けたが、その恩に付け込んで処女を喰った男!   
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