23、皐月の茶会

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 苑子は、五十年ぶりに和泉家の茶事に招かれた理由に、ようやく思い至ったのだ。            和泉本邸の茶室は八畳とやや広いが、それは五家ある番頭家の当主を一同に招集するためでもある。  炉の側、亭主の位置には袴姿の当主、和泉四郎左衛門が端然と座り、雅煕はその隣に、一番いいスーツを着て正座していた。茶室に入る直前、母の由美子に眼鏡を取り上げられてしまい、素顔を晒しているのが不安で仕方がない。  (にじ)り口から入ってきた番頭家の重役たちは、雅煕の姿を見て、おや、と目を見開く。だが口には出さず、順番に客畳に腰を下ろしていく。上席から、筆頭番頭家である銀行・金融関係の大貫(おおぬき)、海外との通商を司る石川、製造業を取り仕切る山内、鉄道やホテル、運輸産業を扱う桜井、そして娯楽産業、マスメディアを仕切る澤田。  全員が位置についたところで、祖父・四郎左衛門が厳かに言う。   「先月、雅煕がめでたく博士号を取得した。秋の茶会では正式に、十七代目予定者として披露目を行うよって、そのつもりで」 「それはおめでとうございます、若様」  
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