23、皐月の茶会

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 言い争いから六年前の事件の暴露になりかかって、雅煕の表情が抜け落ちる。それを見た父親である桜井が、仲裁に入った。 「これからも、我々番頭家一同、大旦那様と若様とをお支え申し上げるだけ! 大旦那様のご健康に感謝して、いっそうのグループの繁栄をお祈り申し上げます!」  真っ先に父親が頭を下げ、それに他が倣う。名目上の存在とはいえ、父親の上に立たねばならない将来を想像して、雅煕はそっとため息を噛み殺した。            茶室を出た雅煕が水屋に繋がる廊下を歩いていると、スーツの内ポケットが振動する。スマホを出したところ、表示されているのは、  ――アンジュ・祖母。 「ええ?」  思わず声に出して叫んでしまい、通りがかった女中の佐々木に不審そうに見られる。 「どうかなさったんです? 若様?」 「え、いやあ、なんでも……」  慌てて人気のない場所に移動して電話に出る。 「……もしもし?」 「サクライさん? お久しぶりですこと。杏樹の祖母でございます」 「は、はあ……あの……」
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