24、五十二年ぶりの再会

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 サクライ自身は、苑子が茶会に招かれているのを知らされていないようだった。だとすれば、いったい何の用で――  疑問に思う目の前で、四郎左衛門が炉の初炭(しょずみ)を熾して釜を火にかける。  水屋から四角い折敷(おしき)に乗せた懐石が運ばれてくる。亭主からそれを受け取り、畳に置く。向付(むこうつき)と漆塗りの飯椀と汁椀。利休箸の下に、封筒が乗せてあった。  ――この、封筒は……  封筒は、柳園齋美術館の銘品の意匠を透かし模様で入れた特注品。あの日、羽田空港でサクライに渡すよう、秘書の丹羽に命じたもの。  無言で眉を顰める苑子に、亭主の四郎左衛門が言った。 「茶席でやり取りするには野暮な代物(シロモノ)や。由美子がそれだけは受け取れへん言い張るさかい、そっと仕舞ってくれたらありがたい」  「……そうはおっしゃっても、こちらにはこちらの立場がございますもの。旅先で救っていただいて、お金を借りっぱなしというわけには参りませんでしょう?」 「こちらの持ち出しは三百ユーロ。四倍にして返されては立つ瀬がない」    「……」
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