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サクライ自身は、苑子が茶会に招かれているのを知らされていないようだった。だとすれば、いったい何の用で――
疑問に思う目の前で、四郎左衛門が炉の初炭を熾して釜を火にかける。
水屋から四角い折敷に乗せた懐石が運ばれてくる。亭主からそれを受け取り、畳に置く。向付と漆塗りの飯椀と汁椀。利休箸の下に、封筒が乗せてあった。
――この、封筒は……
封筒は、柳園齋美術館の銘品の意匠を透かし模様で入れた特注品。あの日、羽田空港でサクライに渡すよう、秘書の丹羽に命じたもの。
無言で眉を顰める苑子に、亭主の四郎左衛門が言った。
「茶席でやり取りするには野暮な代物や。由美子がそれだけは受け取れへん言い張るさかい、そっと仕舞ってくれたらありがたい」
「……そうはおっしゃっても、こちらにはこちらの立場がございますもの。旅先で救っていただいて、お金を借りっぱなしというわけには参りませんでしょう?」
「こちらの持ち出しは三百ユーロ。四倍にして返されては立つ瀬がない」
「……」
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