24、五十二年ぶりの再会

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 封筒に手を触れようとしない苑子に、四郎左衛門がさらに言う。 「いったん、それを引いてもらい、改めて清算し直したい思いましてな」   苑子が不審そうに四郎左衛門を見た。 「済んだことを蒸し返すおつもり?」 「済んだことと思ってるのはそちら様だけ、こちらはまだ済んでへん。――ここで引いたら、五十年前の二の舞や」   穏やかに微笑む目元には深い皺が刻まれ、五十年の年月を突きつけてくる。    「あれは――」  「誤解ないように言うておきますけど、別にあんたに未練があるわけやあらしまへんで。わしはわしで、それなりの幸せも不幸も味わった。そうして得た孫は可愛い。せめて同じ後悔を味わわせたくないと思う程度には」     苑子がため息をついた。 「……あの子は、あたくしにとっては、たった一人の可愛い孫ですのよ。見かけはともかく、中身がね。呆れてしまうくらい、浅はかで、愚かで、短絡的で。何しろまだ子供で――」   苑子が折敷から封筒を取り上げ、中を確かめる。 「救けてくれた相手に、処女を捧げて何が悪いのって。その愚かさに付け込んでいい目を見る男、あなたは許せまして?」   
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