24、五十二年ぶりの再会

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 そう言って、封筒をしぶしぶ帯の間に挟み込んだ。 「で? どういった清算をお望みなんですの?」 「まずは懐石から召し上がってもらって、お茶の続きと行きましょうや」 「ええ、そうですわね。せっかくのお料理が冷めてしまいますものね。いただきますわ」  苑子が飯椀を手に取る。そこへ半東の由美子が飯櫃を運んできて、四郎左衛門にそっと囁いた。 「入ってもらえ」  茶道口を開けると、きちんとスーツを着た壮年の男性が茶室内に入り、正座をして襖を閉める。 「お茶事の最中に申し訳ない。何分、別で動くわけにいかへんことやさかい、失礼を承知でお邪魔させてもらいます。桜井と申します」  物腰といい、穏やかな口調といい、相当な地位にある男だと一目でわかる。日本経済を動かしている男の一人には間違いない。その男がきちんと畳に両手をつき、頭を下げた。 「このたびは愚息がそちらのお嬢様にたいへんな――」  「いえ、そんな……謝罪していただいても、今さら――」  孫娘の処女が帰ってくるわけでもない。……まあ、杏樹も自ら捨てたわけだから、それについては不快ではあるが、男だけを責めるつもりはなかった。
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