24、五十二年ぶりの再会

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「……(たすく)さん……」  つい、五十年前の本名で呼んでしまい、苑子は口元を押える。    「だから、代わりに孫を差し出せと? 鳥籠に入る予定の、あなたの孫に宛がえと?」   剣のある言い方をする苑子に、桜井があくまで穏やかに言った。   「お嬢さんのお気持ちが最優先やから、強要はしません。ただ、大っぴらには動けへんのです。ご存知の通り、和泉の嫁とりは秘密主義や。上手くいかへんかった時、またぞろ六年前のような騒ぎになったら困りますさかい。よそに漏れへんよう、内々に進める必要がありますのや」    それは苑子も知っている。五十年前はその秘密主義のおかげで苑子はひっそりと和泉家との縁を切ることができたが、万一他に知られていたら、北川興産は和泉グループ内企業の報復の的になっていただろう。   「あたくしは反対ですけど……でも、杏樹の気持ちまでは――」 「ほなら、話を進めさせていただいてよろしおすな?」  穏やかな口調ながら押しの強い桜井に言い含められる形で、苑子は了承させられてしまった。
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