25、断れない縁談

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 普段からきちんと着物を着こなし、美術品の鑑識に対しても一家言(いっかげん)を持つ祖母は、杏樹にとっては、保護者であり、信頼と愛情を寄せることのできるただ一人の家族。祖母の望みを、杏樹だって叶えたい気持ちはある。  帰国後、スマホも新調し、新しい番号を伝えるために、大学の友人たちとも連絡を取りあって、少しずつ日常が戻ってくる。パリの記憶も徐々に薄れていく――そんな風に思っていた。   「えー、じゃあ、パリの彼とはもう、没交渉なの?」  表参道の洒落たカフェ。それほど仲のよかったわけではない友人だったが、旅先の失恋話は食いつきがよくて、「実は私も昔……」なんてコイバナを引きだしたり。 「バイト先の男の子、紹介しよっか?」 「え、いいよ……当分、男はいい。……おばあちゃまにも叱られたし。しばらく謹慎する……」 「キンシン? なんか杏樹、難しい言葉使うようになったね」 「そうかな? 最近、本を読むようにしているから……」
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