25、断れない縁談

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 連れていかれた先は一階の応接間。さっきまで客が来ていたらしい雰囲気に、杏樹は首をかしげる。革張りのソファセット、一人掛けのソファに大叔父(祖母の弟の真一郎)と、その息子の勝之(つまり美奈子の父)が揃っていて、ますます普通でない。 「こんばんは、大叔父様、それから勝之おじさま」     挨拶すると、ソファに座るように言われるので、大人しく従う。女中がコーヒーを運んできた。  とくに勝之にジロジロと見られて、杏樹は内心、嫌な気持ちになる。 「急ぎのご用と聞きました。明日も大学が早いから、できれば手短かにお願いします」 「ああ……そのことなんだが――」  勝之が言い淀み、真一郎が痩せぎすの身体を杏樹の方に近づけ、声を潜めた。 「いいか、これは北川家の命運を決することだ。正式に決まるまでは他言無用」 「はあ……」  そんな大事な話を、なぜわたしに――? と杏樹がますます困惑すると、勝之が言った。 「杏樹に、縁談が来た。北川家としては、断れない筋だ」 「……縁談? わたしに?……美奈ちゃんじゃなくて?」
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