26、祖母の過去

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26、祖母の過去

 大叔父に命じられた、突然の縁談。杏樹は現実感のないその縁談に、翌日は一日、首をかしげて過ごす。  一夜明けて気づいたけど、釣り書きどころか見合い写真もなく、相手の名前も苗字しかわからない。そんな縁談、あり得ない。写真だけで外国に嫁いだ花嫁の映画を観たことがあるけど、それよりひどい。  ただ、間違いなく、大叔父たちは杏樹を嫁にやるつもりだ。――そうしないと、北川興産が潰されると、信じている。 (そんなことが、今の日本であると思えないけどな……)  あまりにも話に現実味がない上に、絶対に他所に漏らすなと厳命されているので、友人に相談することもできない。 (縁談……嫁に行くってことは、つまり結婚するってこと? わたしまだ学生だけど。せめて卒業までは待ってもらえるのかな?)  肩にかけたヘリンボーン柄のトートバッグを見て、ふいにパリの恋人のことを思い出す。  ――もう、雅煕さんとは終わったけど、でも……  こんなに早く、別の男との縁談が持ち上がるなんて――    大学から戻ると、離れの玄関に祖母の草履があった。 「おばあちゃま? 戻ってるの? 杏樹です!」
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