26、祖母の過去

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「奥様ならお座敷にいらっしゃいます」  祖母の秘書を務める丹羽が声をかけ、杏樹が礼を言って座敷に向かう。 「おばあちゃま、杏樹です!」 「どうぞ」  祖母は荷ほどきして、着物を衣紋かけにかけているところだった。 「どうしたの、杏樹」 「昨日、母屋の叔父さんから呼び出されて……和泉財閥の御曹司と結婚しろって」  祖母が手を止め、杏樹を振りかえる。 「え? もう、そんな話が?」 「うん、美奈ちゃんじゃなくて、わたしが指名されているって」  祖母は呆れたように大きく息をして、呟いた。 「なんて性急な……」   「その……叔父さんが言うには、昔、おばあちゃまが結婚を嫌って逃げた相手の孫だから、今度は絶対に断れないって……ほんとうなの?」 「別に断ってもいいわよ。杏樹の気持ち次第、って確約は取ってあるわ」  祖母の返答に、杏樹は目を瞠る。――確約っていつの間に? 「ど……どういうことなの?」 「昨日、向こうから杏樹を嫁に欲しいと言われたのよ。……正直言えば、あたくしはあの家にお前をやりたくはないけど、お前がいいというならばと、返事をしたわ」 「なんでそんな勝手に……」
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