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「あたくしは了承したつもりはないけど……それにしても昨日のうちに、真一郎に話を持ってくるなんて、あちらもずいぶんと動きが早いのね。それだけ切羽詰まっているのかしら」
首をかしげる祖母に、杏樹がさらに尋ねる。
「叔父さんたち、もし断ったら北川興産が潰されるって――」
「まさか! ヤクザじゃあるまいし」
着物の半襟を外しながら、祖母が呆れたように言う。
「で、でも……前の婚約者のおうちはお爺さんが失脚して、会社は潰れる寸前までいったって!」
「前の婚約者……」
「有賀電機?」
「あー、あの時の!」
祖母がポンと手を打つ。
「じゃあ、彼はあの時の――あの騒動は、わたくしも内情は知らないわ。でも、有賀家側が相当に不義理を働いたんじゃないかしら」
「そうなの……?」
祖母が笑った。
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