26、祖母の過去

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「ねえ、おばあちゃま、はぐらかさないで。昔、おばあちゃまが振った相手に会ってきたの?」     「……まあ、そうなるわね。五十年も前のことで、今さら何と思ったけど、ちょっと断りにくい頼みごとだったから」  祖母は言い、もう一つ、別の包を取り出す。 「阿闍梨餅(あじゃりもち)買ってきたの。あたくしこれ、大好物なのよ。杏樹、お茶入れてちょうだい」  杏樹はため息を一つつくと、キッチンからお茶のセットと電器ポットを持ってきて、コンセントを入れてお湯を沸かす。急須と湯呑に沸いたお湯を入れて温めてから、煎茶を淹れた。 「ふー、やっぱり年ね。新幹線の往復は疲れるわ。……あの人もすっかりお爺さんになっちゃって……」  煎茶を一口飲んで、祖母がしみじみと言う。   「どうして、逃げたの? 嫌いだったの?」  杏樹の問いに、祖母は目じりの皺を深くする。 「とてもね、優しい人だったわ。あたくしの我が侭も全部聞いてくださったし、嫌なことはしなくていいって言ってくださった。外国に行きたいって言うあたくしに、結婚したらいくらでも連れていってあげるって」 「……好きだったの?」
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