26、祖母の過去

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「割と好きだったわよ。美男子で品があって、頭がよくて。何か国語も話せて、難しい本もたくさん、読んでいらっしゃった。うちとは桁違いのお金持ちで、プレゼントも素敵なものばかり」  杏樹はなんとなく、雅煕の姿を思い浮かべながら、祖母の話を聞いていた。  祖母はひらぺったい饅頭を二つに割る。ぎっしりと詰まった粒餡が現れ、一口口に含む。 「じゃあ、なんで逃げたの?」  「……気の弱い人だったの。何というか、すべてを諦めているように見えたわ。――とても豪華で居心地がいいけれど、要するに鳥籠の中の人生と決まっている。あの人は、その鳥籠で一緒に暮らしてくれる人を求めてたのね。それに気づいた時に――」  祖母が、残りの半分の饅頭を口に押し込む。ごくんと飲み込んでから、言った。 「今は好きだけど、きっと将来、嫌いになる。あの人がものすごく好きだったらよかったけど、そこまで好きなのか自信がなかった。将来、もし、嫌いになったら地獄よね。……だってその時にはもう、鳥籠に囚われちゃって、逃げられないんだから。だから……逃げたのよ」       無言でずっと祖母を見つめている杏樹に、祖母が目を向ける。
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