27、追い詰められる

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「あれは(あわせ)でしょ? 夏用の絽の振袖は持ってないじゃない」 「……夏用……?」  祖母行きつけの呉服屋は、大旦那と若旦那の二人がかりで反物を運び入れていたが、杏樹に気づいてにこやかに頭を下げた。 「杏樹お嬢さん、これまた、綺麗になって! こんな美人さんとお見合いするの、どんな幸運児!」     「お、お見合い? わたしが?」    杏樹がギョッとする。 「仰々しく『お見合い』じゃなくて、さりげなく引き合わせる風と取るんだけどね。だからと言って、みっともない格好はさせられないから……」 「そうですとも! 時期は七月ですか?」 「そうねえ、あちらは六月にもって言うんだけど、いくらなんでも急すぎると思うから……」 「六月でも先取りで、絽でいけますよ。最近は残暑が厳しいですから、九月の半ばくらいまで絽の着物を着る方もいますし」        呉服屋が座敷いっぱいに、色とりどりの反物を広げはじめ、瞬く間に百花繚乱のありさま。 「お若いですから、やはりピンクか……」 「水色も涼し気でいいわねぇ」
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