28、衝動的な逃避行

2/7
前へ
/337ページ
次へ
 京都までの二時間半。窓の外は杏樹の心を映したような曇天が垂れこめ、関ヶ原を越えたあたりで、とうとう、雨が降り出した。  時速300kmの車窓にぶつかる雨粒は、後ろに飛ばされるように横に転がって流れていく。杏樹はそれを、ただひたすらに眺めていた。     「――間もなく、京都、京都。地下鉄線、近鉄線はお乗り換えです」  車内のアナウンスにハッと我に返り、荷物を確かめる。大学に行くつもりだったから、トートバッグ一つだけ。途中、車内販売でコーヒーとサンドイッチを買った。食べ終えたゴミをデッキのゴミ箱に捨て、ホームに降り立つ。  新幹線のホームで、どっちに行くべきかもわからず、杏樹は立ち尽くす。  スマホを取り出し、もう一回、リダイアルボタンを押した。 『もしもし?』 「あ――」  まぎれもない雅熙の声――! 周囲の、ホームの喧騒が一瞬で消え、心臓がバクバクと波打つ。 『もしもし? もしもし?』 「あの……」  懐かしい声と関西のイントネーションに感極まってしまい、言葉が出ない。スマホを耳に当てて口をパクパクさせていると、電話の向こうで男が言った。 『杏樹? 杏樹やろ?』
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2331人が本棚に入れています
本棚に追加