28、衝動的な逃避行

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『連絡くれてありがとう。……ずっと待ってた。必ず、行くから、待ってて』  杏樹はスマホを握りしめ、小雨の中をタクシー乗り場に走った。    京都サクラホテルは御池通り沿いの角地にある老舗のホテルだった。吹き抜けになったロビーラウンジに足を踏み入れ、ふわふわした気分で最寄りのソファに座り込む。  高い天井と、中央のいかにも豪華な大階段。分厚い絨毯に、高級感溢れるソファ。  ――あー、こんな適当な服装で来ちゃった。  改めて自分の姿を見下ろし、ため息をつく。  大学に行くだけのつもりだったから、白いブラウスに、グレイのチュールスカート、冷房対策にベージュのカーディガンを羽織っているだけ。化粧もおざなりだと思い出す。  ――せめて、新幹線の中で直しておくんだった! 杏樹のバカ!  今から化粧直しだけでもしてこようかと顔を上げたその視界に、自動ドアを通り抜けて背の高い男が駆け込んできた。
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