28、衝動的な逃避行

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「では失礼します」  支配人が下がると、窓辺に立って外を眺めていた杏樹に、雅煕が近づいてそっと肩に触れる。  振り向いた杏樹と見つめ合って、おずおずと手を伸ばす雅煕に、杏樹が抱き着いた。その背に雅煕の腕が回され、ぐっと強く抱きしめる。 「杏樹……会いたかった」 「ん……わたしも……」  杏樹の背中を、男の大きな手がすべるように撫でる。存在を確かめるように動いて、さらに力が籠められる。  杏樹の耳元に深い、ため息が落ちる。 「……お仕事中だった? 無職……じゃなかった……」 「バイトや。……週一コマだけやから、限りなく無職に近い」  雅煕が抱擁を緩め、杏樹の顔を見下ろしてくる。   「杏樹、何があったの」  杏樹が唾を飲み込んだ。    「お願い……雅煕さん……」  そうして、消え入りそうな声で、ようやく言葉を絞り出す。 「……抱いて」 
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