29、ダサ眼鏡の若様

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「ごめん、ちょっと待って。――いつもと、違う場所に行くかもしれん」  それから杏樹に改めて問う。 「今、京都駅におんねんな?」   『うん、お願いが――あって――』  お願い? お願いなら何でも聞くが、だがどこで――  素早く左腕の時計を確認する。午後一時前。京都市の北西の端っこから南の端の京都駅まで、市内を突っ切ることになる。それよりは、京都の真ん中まで来てもらう方が早い。     「杏樹、そこからタクシー乗れる? 烏丸(からすま)口の方に出て……」 『うん、たぶん……』  杏樹が移動を始める気配に、雅煕は運転席の三崎に告げた。 「三崎さん、御池通(おいけどおり)のサクラホテルにやって。その後は、呼び出すまで本邸に帰ってくれていい」  「かしこまりました」  車が動き出し、杏樹も無事に改札を出たらしい。   『タクシー乗り場わかる? 御池の、サクラホテルって言えばいい。ロビーで待ってて。俺も()()()()で行くから』  そうして指示を出してから、今度はスマホに登録済みの、ある番号をタップする。数コールで緊張した声が出た。
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