29、ダサ眼鏡の若様

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『はい。サクラホテル支配人の東郷(とうごう)でございます』  「僕です。雅煕です。――今から、一部屋用意してもらえる?」     『今から、でございますか。ええっとどういったご用途で――』 「……叔父さんから、女の子といちゃつきたい時は、ウチのホテルにしろ言われてんねん。他所やとバレた時に面倒やさかい。……あ、我が侭言うて悪いねんけど、ゴムって用意してもらえる? 買う暇あらへんねん」  雅煕の言葉に、電話の相手が一瞬、息を飲んだ。視線を動かせば、バックミラー越しに三崎の驚愕に見開かれた目と、目が合う。   (……なんやねん! そこまで驚かんでええやろ! どんだけ喪男(もだん)やと思われてんねん、俺!)  『……かしこまりました。このこと、晴久社長はご存知で?』 「叔父さんが知るわけないやん。……御注進に及んでくれてかまへんけど、邪魔はせんといてや」  雅煕は通話を切ると、フーッと深い息を吐いて、バックシートに背中を預け、眼鏡を外して目頭を揉んだ。           サクラホテルのフロント奥のオフィスで、支配人の東郷は通話の切れたスマホの画面を見つめていた。
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