29、ダサ眼鏡の若様

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「支配人……?」     まだ若い事務員の小川に声をかけられて、東郷はハッと我に返る。 「小川君、十六階の利用状況はどうなっていましたか。今すぐ使える部屋ありますか?」 「えーっと、スイートは二部屋埋まっていて、今夜の予約が二部屋……ジュニア・スイートと、エグゼクティブツインは空いています」 「ジュニア・スイートを押えてください。そちらに今から若様がいらっしゃいます」 「若様? 誰?」 「若様と言ったら、若様ですよ! とにかく、若様が着かれてもいいよう、部屋の準備をお願いします! 大至急!」  支配人に叱られ、小川は慌てて返事をする。 「わ、わかりました! ……ってか、若様ってなに? 江戸時代やあるまいし……」   ブツブツ言いながら、手の空いている部屋係にジュニア・スイートの点検を要請すべく、内線電話に手を伸ばす。 「あ、小川君、部屋係には、室内にゴムを置くように指示を!」 「……ご、ゴム?……輪ゴムですか?」 「ゴムと言ったら避妊具でしょう!」 「え? ヒニング?」  支配人はしかし小川の問いは無視して、スマホの操作し、コールする。
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