29、ダサ眼鏡の若様

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「……もしもし? 社長? 私です。京都の東郷です。ええそうです。超、緊、急、の用件です。……若様が、ですね……ええ、あの若様です。落ちついて聞いてください。若様が、この後すぐ、女性を当ホテルに連れていらっしゃいます。いえ、そうです。ゴムを用意しろとおっしゃったので、そのおつもりかと……いえ、どんな方かは全く……」     支配人が神妙な表情ではい、はい、と社長からの指示を仰いでいるのを、小川はそうっと観察していた。 「……はい、今からですと、ご宿泊になるかどうかは微妙かと。はい、それはもう、重々……はい。承知いたしました」  通話を切った支配人は、さらに驚愕の事実を小川に告げる。 「晴久(はるひさ)社長もこちらに向かわれるそうです。到着されたら、すぐに私に一報を」 「えええ? 社長も来るんですか?」 「当然です。これは我がサクラホテルチェーンのみならず、和泉グループ全体の最重要案件であり、最高レベルの機密事項です。いいですね、ゆめゆめ他に漏らすようなことは……」  支配人が眼鏡の奥の目をグリグリさせて小川にすごむと、小川はその迫力に「ひいい」と身を縮める。
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