30、君の中で死にたい*

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 疑問はグルグルと雅煕の頭の中をめぐるけれど、でもそんなものは、腕の中の華奢な身体のぬくもりの前には些細なこと。夏物の薄い綿のブラウス越しに、杏樹の身体のラインも体温も、すべてがダイレクトに彼の掌に伝わり、再会の喜びと同時に男の欲望も煽られ、暴発寸前だった。    ――落ち着け。冷静になれ。四か月ぶりに逢って、いきなりがっつくんじゃない! ここで逃げられたら俺は――  雅煕は断腸の思いで抱擁を緩め、杏樹の顔を見て、尋ねる。    「杏樹、何があったの」  杏樹が唾を飲み込んで、消え入りそうな声で囁く。 「――抱いて」  雅煕の激情をぎりぎりで抑え込んでいた理性の(タガ)が、一瞬にして粉々に弾け飛んだ。 「杏樹……! またそうやって俺の最後の理性を砕くようなことを!」  雅煕は眼鏡を外してテーブルの上に投げつけ、杏樹を抱きしめると、噛みつくように唇を奪う。無理矢理舌を捻じ込んで咥内を弄り、口蓋の裏を舐め上げると、杏樹の膝の力が抜け、立っていられないのか、縋りついてくる。 「ふっ……あっ……」
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