3、オテル・ド・ロンシャン

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 杏樹は通っている女子大の、講師たちを思い浮かべる。――保育科だから、講師陣は女性が多いけど、一般教養にはおじいちゃん教授もいた。しかし、桜井は気まずそうに肩を竦め、自嘲気味に答える。   「そうなれたらいいなーっと思ってたけど、就職できなくて四月から無職の人です」 「無職!」       そんな人にお金を借りていいんだろうか。杏樹が目をぱちくりさせていると、桜井が笑った。 「ありがたいことに実家は金持ちやから、働かんでも生きてはいけんねん。それに、三月まではお国から研究費をもろてるさかい、とりあえずの金はある。君に貸すくらいは問題ない」 「……いろいろ、すみません。本当に、何から何まで。どうしてお礼をしたらいいのか……」 「ええねん、困ってる人は見捨てたらあかん、ってうちの家訓やから。気にせんといて」 「……家訓……」  穏やかに微笑む桜井のダサ眼鏡に後光が差して見える。 「おいで、こっち」
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