31、盗聴大作戦

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31、盗聴大作戦

 十六階のスイートルームで恋人たちが四か月の空白を埋め合わせるべく、肌を重ねていたちょうどその頃。  支配人は一階のロビー奥で社長の尋問に遭っていた。  サクラホテルチェーン社長・桜井晴久(さくらいはるひさ)。そこそこの美形を輩出してきた桜井家の中でも、見かけの良さは一番と言われる。調子に乗って遊び過ぎて結婚が遅れ、現在は幼稚園児の娘にめろめろの四十八歳である。ロンドンで仕立てた最高級のスリーピースをピシリと着こなし、数か国語を操るビジネスエリートながら、日本語は関西弁しか喋れない。もっとも、これは桜井家の男たちに全員共通する特徴でもある。 「……ほんで、今はその、かわい子ちゃんとしっぽりがっつりヤってるってことなん? あの、雅煕が?」  一人がけのソファの肘掛に片肘を預け、長い脚を組んだ姿は文句なしの格好良さだが、きつい関西弁のおかげで、知らない人にはインテリヤクザにしか見えない。生真面目な支配人は、この晴久社長が実は苦手であった。 「はあ、まあその……ご、ゴムをご所望なさいましたので」
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