31、盗聴大作戦

3/7
前へ
/337ページ
次へ
 和泉家の嫁とりの厄介さは、究極の秘密主義である。相手の家との話がまとまるまでは、本人にも知らせない。現状、縁談の存在を知るのは、当主の他には雅煕の両親と叔父・晴久、そして東京で窓口になっている番頭家筆頭の大貫(おおぬき)のじいさんだけ。 「この週末にも旦那様から話していただくつもりやったんやがなあ……」     晴久が困ったように顎を撫でる。ずっと女の影もなかったせいで、油断したわ―― 「お待たせしました。こちらがエレベータ―内のカメラの写真で――」  支配人の差し出す写真を見て、晴久は眉を上げる。エレベータ―の中で、眼鏡をかけた背の高い男と、華奢な女子大生風の女が寄り添っている。雅煕と、謎の女―― 「雅煕、なんなんやこのダッサい眼鏡は。変装でもしてるつもりか?……って、この子、ちょうど顔が隠れてるやん、これしかないん? って胸デカッ……」 「その、ずっと若様の陰に入ってしまわれて、お顔のはっきりする写真がなく――」 「見た感じ、水商売の女ではなさそうやな……」  「何というか、その、ちょっと思い詰めていらっしゃる風に見えました」  支配人の言葉に、晴久が首をかしげる。
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2331人が本棚に入れています
本棚に追加