31、盗聴大作戦

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 二階? 支配人がギョッとする。二階の日本料理店ではせっかくのマイクが―― 「あー二階は本日、予約が満席でございまして、あの、和食でしたら十七階の《花筐》で、お席ご用意できますが」 『……十七階?』 「こんな天気ではございますが、雨の日の夜景もなかなか――」 『僕、高いとこ苦手なんやけどな……まあ、いいわ、そうしてくれる? じゃあ七時に上がるから』    通話を切り、支配人は思わず「フーッ」と額の汗を拭いた。          「今、個室にお入りになったと、日本料理店より連絡が入りました」  支配人のオフィス、革のソファに座ってパソコンを開き、ビジネスメールを返信していた晴久が、支配人からイヤホンを受け取る。 「聞こえますか?」 「お、お、聞こえる聞こえる。感度良好や!……彼女なかなか可愛い声してる。関西の子やないみたいやな」  晴久がイヤホンからの会話に耳を澄ます。仲居が注文を取りに来て、季節の懐石コースと微発泡の日本酒を頼むのが聞こえる。 『……どうして、今まで連絡くれへんかったん』  雅煕の恨みがましい声に、晴久の片眉が上がる。
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