32、大きな勘違い

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32、大きな勘違い

 ホテルのバックヤード、支配人室で恋人たちの会話を盗み聞きする晴久社長も修羅場だったが、本人たちはその比ではない。   『ど、どういうこと? 結婚? え? なにその、絶対に逆らえない相手って。ヤクザ?』 『よくわからないけど……すごい大きな財閥の御曹司? でも写真もないし、釣り書きもないの。断れないからあっても意味がないって叔父さんが……お前は顔と胸しか取り柄がないから、せいぜい嫁に行って御曹司に媚びを売ってこいって……』    後半、涙声になった令嬢に、晴久も思わず同情する。そら、若い身空でそんなん言われたら、俺かて泣くわ。北川のジジイども、仮にも和泉家のお内儀様になる人に、なんてこと言うねん。――見かけによらず和泉本家に対する忠誠心の強い晴久は、ひそかに、北川家の当主らにはいつか制裁をくれてやると決意した。  『え、ちょっと待って。杏樹は俺が好きなんやろ? 俺が好きなのに、他の男と見合いして結婚すんの?』  一方、雅煕も大混乱に陥っている。まだ、縁談のことを聞いていないから、まさか縁談の相手が自分だとは思うまい。    ――和泉家の秘密主義のあかんところ、こういうとこやで!
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