32、大きな勘違い

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『……いや、俺の思いついた御曹司は、マザコンでもインポでもないさかい、その人とは別人やと思う……』  支配人室で、さすがに耐えきれず晴久が噴き出した。       九時半過ぎの最終ののぞみで東京に帰ると言う杏樹と、絶対に帰さないという雅煕の攻防が続き、結局、二人が十六階の部屋に戻ったのが八時半過ぎ。  そこに突入して真実を語ってあげるべきか、晴久は相当に悩んだのだが、後継者の縁談に関するすべての決定権は当主・四郎左衛門に属する。晴久は、今日の報告を四郎左衛門に上げるだけに留めた。 「もしもし……桜井の晴久ですが。旦那様にお取次ぎいただきたい。例の東京の北川の件で」  スマホなど断固持たない四郎左衛門の固定電話にかければ、老練な秘書が出たので、取次ぎを依頼する。 『おう、晴久か。どないした。そちらからかけてくるのは、珍しい』 「うちのホテルに、今夜若様がお泊りになってます。北川家のご令嬢とご一緒に」  『ほう……』 「ですが少々、厄介なことが」 『厄介、とは?』
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