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「北川家のご令嬢、あちらの家での扱いがよろしくないみたいですな。今回の縁談について、きちんとした説明もなく、高圧的に嫁げと命令されたようで。しかもご令嬢は、若様が秋に和泉の家に養子に入ることをご存知ない」
『……それで?』
「ですから、和泉財閥の御曹司が、若様だと気づいていはらへん。なんや知らん、でかい財閥の、マザコンでインポ男に嫁がされると思うて、若様にお別れ言いに来はったんです」
『……雅煕はどうしてる』
「若様の方はなんや聞いたことある話やと思わはったみたいですが、自分がその御曹司とまでは確信できへん」
晴久の報告を聞いていた四郎左衛門が言った。
『……苑子がちゃんと話していないのはなんでや?』
「行き違い、誤解、思い込み……こんなんが重なってるんかもしれまへんな」
『顔合わせは来月の頭。あと二週間もない。相手の家の中のことには干渉しないのがしきたりや。お嬢さんには気の毒やが、こちらは口を出されへん。雅煕にはお前から話して――うまくすれば、雅煕から説明されるやろ』
「わかりました」
晴久が承知すると、電話口の向こうで四郎左衛門が笑った。
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