32、大きな勘違い

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『しかし、可愛らしい子やな。東京からわざわざ会いに来るとは。フランスに逃げた婆さんとは大違いや。……わしが逃がしてしまった小鳥を、孫の雅煕がフランスで拾って帰って来たような気ぃがすんねん。せやからな、わしや苑子があんまり口を出さん方がええように思うんや』 「はあ……」  滅多に無駄話をしない四郎左衛門が、珍しく心情を吐露したので、晴久は戸惑う。 『せやさかい、お前は今まで通り、雅煕が暴走せんように、陰から見張っておくだけでええ。――(はるか)の二の舞にならへんように』 「それはもう、重々、心に留めておりますさかい」  三十年前、晴久と同じ年で幼馴染で親友でもあった和泉玄(いずみはるか)――本来ならば、十七代目四郎左衛門を継ぐはずだった男は、北米留学中に不慮の死を遂げた。ちょうど一年後の、玄の命日に生まれた雅煕を、彼の生まれ変わりのように思って、見守り続けてきた晴久である。        通話を切り、晴久は支配人に告げる。 「もう、今夜は何事も起きひんやろ。俺も愛する妻と娘の元に帰るわ。……明日、嬢ちゃんが東京帰ってから、雅煕に大事な話があるさかい、本邸に帰る前に捕まえとけ」
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