33、諦めきれない男

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33、諦めきれない男

 縁がなかったのだと思いながらも、諦めきれずに身悶えていた雅煕の前に、焦がれた女は前触れもなく京都を訪れ、その身を差し出した。その狂熱も醒めないうちに、叩きつけられた絶望的な言葉。    断れない縁談のために、他の男に嫁ぐ。だから、最後に抱いてほしかった――  まさに、天国から地獄。  ジェットコースターに乗せられた気分で、めったに酔わない雅煕も、その夜はいささか酩酊気味で、正常な判断力を失っていた。  「逃げる女は追うべからず」――家訓に縛られて自分から連絡を取ることはできなかった。  かつて、和泉家の権威は絶大であった。和泉家のトップに立つ男が求めれば、周囲は女の意志を無視してその意向に従わせてしまう。  ゆえに、自ら去る意志を見せた相手を追うことは禁じられている。強大過ぎる家の力で、大切に思う相手の意志と心を潰してしまわぬように――
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