33、諦めきれない男

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 こいつも謎の御曹司に杏樹を嫁がせる一味なんだ、同じ御曹司なら俺でもいいのに、そんなに俺が嫌いなのかよとの、内心の葛藤を押し隠し、敢えて縁談など知らぬふりで、身体の関係を匂わせているのに、しかし北川苑子は露骨にホッとした声を出した。 『そちらにいると聞いて安心したわ。あの子ったら連絡もせずに。最近、なんとなく落ち着かない様子だったのだけど、あなたに逢いに行ったのね。じゃあ明日、気を付けて帰ってくるよう、伝えてくださいな』   お邪魔したら悪いから、とあっさり電話を切られて、雅煕はしばらくスマホをじっと見下ろしていた。  ――あれ? なんか、空気変わった?  縁談進んでる最中に、よその男とホテル泊まってんのにお咎めなし?  北川苑子に二人の関係が続いていることを暴露して、向こうの縁談を妨害しようという、雅煕のちょっとしたカウンターのつもりだったが、あちらの反応が予想と違った。   なんだろう、何かが引っかかっているのに、いろんなショックと酒で酩酊した頭は、まともな思考を紡いではくれない。  杏樹に縁談。それも、断れない筋の――
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