3、オテル・ド・ロンシャン

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 言いよどむ桜井に向かって、レセプションの女性が早口のフランス語で畳みかけ、二人の顔を見比べ、くすりと笑った。 「あー……困ったな。そういう仲ではないんやけど……」 「ええ? 何か問題が?」    桜井が観念したように杏樹の方を向き、眼鏡の上の前髪をかきあげる。 「その――非常に言いにくいねんけど――」 「はあ」 「部屋が――いっぱいらしくて――」    「えええ!」  中国人の団体ツアー客で、二泊ほど満室になるらしい。 「で、それで……受付の彼女が言うにはですね、俺の部屋はツインやから、彼女なら一緒に泊まったらええやんって……」 「え」   さすがにギョッとして、桜井の姿を頭からつま先まで観察してしまう。  ごわっとしたくせ毛の黒髪と、太い黒縁の眼鏡。眼鏡の下の目は切れ長で、顔だちも悪くない――ような気がする。というか、そもそも、こんなオタクファッションの男を、普通はしない。
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